やさしい声【短編】




「姉が家を出た直後は

本当に家の中はすさんで

朝、小学校に行く時もね
カーテン閉めきって

帰って来ても そのままで

化粧もしなくなった母が心配で

暗いリビングになるべく いるようにした
母のそばにいる事しか出来なかった

だけど、やっぱり私はダメだね

逆に
母はそれが嫌だったみたいで

ある日、私に言ったの


『あんたも消えればいいのに』って


翌朝、
私の耳は聞こえなくなった

心因性難聴

しばらく心療内科に通って

責任を感じた母は私の看病で姉の事を忘れるように


徐々に家の中も『日常』を取り戻して

私の耳も半年くらいで治った


でも、人の声が聞き取れない あの日々が忘れられなくて


隣に誰かいるのに声が聞こえないのが怖いの


   それに」




「それに?」



「…………母はすぐ謝ったの

『あんたも消えればいいのに』

そう言ったすぐあと

『嘘だよ、ごめんね。
真琴、嘘だからね』って

お母さん、謝ったのに

私は耳が聞こえなくなった


母があの時に1番つらかった事を私は知ってたのに


私は母を許せないから
耳が聞こえなくなったんだって


そんな心の狭い自分が嫌で……」




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