【鬼短1.】顔無し鬼
わたしはいつからか此処に居た。
小さな小さな祠(ほこら)がわたしの住まい。
鳥居もない神家(かみや)だけれど、大きな桜の木がすぐ隣に立っていて、一年中心地のよい木陰になっている。
祠からは、ヒトの住まいが見える。
そこには、ずうっと前から、おんなじ一族が住んでいる。
ずうっと前から、田を耕し畑を作っているヒトビトだ。
−わたしは神のはしくれ。
けれど供物は、普通の神様方とはちがう。
ヒトが聞かせてくれるお話しが、わたしの身を満たしてくれるのだ。
…まあ、肉体というものはわたしにはないけれど。
そして、ずうっと昔から、この一族がわたしにお話しを聞かせてくれてきた。
ずうっと、ずうっと昔から。