キミは聞こえる
「な…んで、わかった?」
「人間観察はわりと得意だったりする」
ボールが起こした風で崩れた髪を指先でさっと直す。
「見てるとこは見てんだな」
……どういう意味だ。
失礼にもほどがある。
「どんどんどうぞ」
紅白の旗揚げのように棒を指し、その度にボールは泉に指示されたように彼女が示した場所へ飛んでいく。
「―――なぁ、なんでそんなに俺がボールを蹴る位置を正確に読んでるんだ?」
やや息の上がってきたところで桐野は尋ねた。
アゴから滴る汗を手の甲で拭う。
「種明かしをしようか」
「うん」
「じゃあ私と場所交換」
桐野をキーパーにして、そこから少し離れたところで泉はボールを傍に置いた状態で彼に対する。
「見てて思ったんだけど、これってなんて言うんだっけ……PK戦? ―――だよね。桐野くん、ボールに足を当てる前の一瞬、ゴールを見てる」
「んなの、誰だって見んだろ」
「右に蹴り込むときはカモフラージュで反対を見てる。でも、蹴る前のほんの一瞬で相手に答えを教えてる」
運動神経も動体視力も、もういっそ自慢してもいいのではないかと言うほど群を抜いて低い泉が、桐野の本当の狙い位置を察したとてボールを弾くことなど到底不可能だが、現役の選手たちならば話は別だろう。
取る(キャッチ)までは難しくとも、拳か手のひらでボールの軌道を変え、ゴールから外すことは出来るのではないか。
見破られたことに動揺したか、それとも―――こちらはあまり考えたくないが―――常にぼーっとしていると決めつけられる泉に指摘されたことが許せなかったのか、
もしくは、そんな泉にさえわかるほどばればれだったのかと気づき恥辱(ちじょく)を覚えたか、
桐野の頬に体温によるそれでない赤が散った。
「人間観察はわりと得意だったりする」
ボールが起こした風で崩れた髪を指先でさっと直す。
「見てるとこは見てんだな」
……どういう意味だ。
失礼にもほどがある。
「どんどんどうぞ」
紅白の旗揚げのように棒を指し、その度にボールは泉に指示されたように彼女が示した場所へ飛んでいく。
「―――なぁ、なんでそんなに俺がボールを蹴る位置を正確に読んでるんだ?」
やや息の上がってきたところで桐野は尋ねた。
アゴから滴る汗を手の甲で拭う。
「種明かしをしようか」
「うん」
「じゃあ私と場所交換」
桐野をキーパーにして、そこから少し離れたところで泉はボールを傍に置いた状態で彼に対する。
「見てて思ったんだけど、これってなんて言うんだっけ……PK戦? ―――だよね。桐野くん、ボールに足を当てる前の一瞬、ゴールを見てる」
「んなの、誰だって見んだろ」
「右に蹴り込むときはカモフラージュで反対を見てる。でも、蹴る前のほんの一瞬で相手に答えを教えてる」
運動神経も動体視力も、もういっそ自慢してもいいのではないかと言うほど群を抜いて低い泉が、桐野の本当の狙い位置を察したとてボールを弾くことなど到底不可能だが、現役の選手たちならば話は別だろう。
取る(キャッチ)までは難しくとも、拳か手のひらでボールの軌道を変え、ゴールから外すことは出来るのではないか。
見破られたことに動揺したか、それとも―――こちらはあまり考えたくないが―――常にぼーっとしていると決めつけられる泉に指摘されたことが許せなかったのか、
もしくは、そんな泉にさえわかるほどばればれだったのかと気づき恥辱(ちじょく)を覚えたか、
桐野の頬に体温によるそれでない赤が散った。