フラミンゴの壁
第9章
「お客さん。仕事たいへんなんですか。眉間に皺を寄せて・・・。」運転手が俺に話しかけてきた。
俺は答えなかった。
それで一方的に遮断して話しをしたくないことを示したつもりだが、運転手は逆に気を使ったのか余計に話しかけてくる。

「いや~私も前は、タクシーの運転手をやっていたわけでないんですよ。いまのほうが気が楽ですよ。こうやって座席にすわって道なりに行けばいいですからね。前職は、地獄のようなものでしたよ。それが可笑しな職業でしてね。始終、女のおっぱいを揉み続ける仕事でしたよ。24時間、揉みまくっていましたね、いろんな女を。おかげで手の指は変形しましたよと左手を上げた。」

俺は呆れて答えなかった。

「馬鹿らしい。そんな職業がありえるわけがない。」

バックミラーに運転手のにやけた口元が写っていた。
俺は助手席の運転手の社員証を見た。
色白に切れ長のツラ。

「こいつだ。」

「運転手さんは、綺麗な顔をしてますね。どこかで僕とあったことがありますか?実は、いまね、美しい男を捜していることろでね。運転手さんがもしかしたら、その男性なのかなって思ったりしたんですが。」

しばらくの沈黙があった後に、運転手が口を開いた。
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