フラミンゴの壁
第16章
俺はとまどった。
俺のきっかけが発動するとは思わなかったし、ヘルメスがまさか俺にきっかけを使おうとも思っていなかった。

三人のなかに不穏な空気が漂い、そして時間が彷徨っているようだった。

ヘルメスが最後に仕掛けていたきっかけがなんだったのか俺は気になってアテネに聞いてみた。
アテネは無言のまま何も言わなかった。
ダナエは悲しみのなかへと没入し、嗚咽のなかにときどき悲鳴のような声をあげていた。
そのダナエの悲痛なる悲鳴が俺に動悸を与えた。

ダナエは頬をつたう涙を拭いながら、立ち上がり俺に向かって「殺してやる」と言い、台所から包丁とホークを両手に握り締めて勢い良く俺に向かってきた。

アテネはダナエを制止させようとカラダを入れるが、ダナエはアテネを振り払った。

ダナエはカラダごと俺をベットに倒し、馬乗りになって包丁の柄で頭部に振り落とした。

がつんと視野がブレれ、俺は視界をダナエから失う。

ダナエは透かさず右手に握っていたホークを俺の横腹に突き刺した。

横腹に食い込んだホークが赤い血に染まった。

俺はカッとなってきっかけを使おうとしたが、呼吸が乱れ、意識もしっかり維持できない朦朧としてぐったりベットに横たわって動けなくなってしまった。

ダナエは倒れて空を向いている俺のカラダにオーディオのヘッドホンのコードで俺を縛り、そのうえから水で濡らしたシーツを被せて俺のカラダを拘束した。

それから二人は俺の部屋から出ていった。

ふたりの背中を追い掛けるようにベットのうえでもがいたが、シーツは俺の肌に吸い付き身動きも取れなかった。

次第に俺の血がシーツに染み出していた。
それをみてまた意識が朦朧となり胸が苦しく動悸が激しくなる。

俺は目を伏せて、なるべく自分の現状から意識を離そうとした。
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