狐と兎
「ハルト……」


他の患者もいなくそこにいるのはハルトとキルシュのみでした。

真っ白な空間の中で、キルシュのその声はすぐに消えて行きました。

ずっとハルトを見ていたからなのか、キルシュはすぐに彼の異変に気付きました。


(包帯の域が広がっている……?)


特に気にも留めなかった手首の包帯。最初にそれを見た時から、

明らかにその巻いている領域が増えている事が分かりました。

左右共に手首から手の甲の半分位を埋めていたのです。

なかなか治らない怪我が悪化したのかと、不安になり始めたキルシュ。

その手を思わず強く握りしめたその時でした。ハルトの瞼が微かに動いたのは。
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