狐と兎
それでもなおキルシュは走り続けました。

時には転び、時には1人で倒すのは難しい木の魔物に追いかけられたり、

目的地に辿り着くのはそう容易い事ではありませんでした。

月が頂上まで登り、太陽の明るさにかき消されようとした夜明けの時間。

擦り傷や切り傷、そしてカトラの小屋の前での落とし穴での泥の汚れ。

グシャグシャになってしまった髪の毛。

誰から見ても綺麗とは決して言えないボロボロとなったキルシュは今、

記憶だけで辿り着いた龍の住処へとやって来ました。

森の反対側の出口。小さい物から大きな物まで、尖った岩ばかりがある場所でした。

が、その場所に龍の姿は何処にもありませんでした。


「此処じゃないって言うの!? じゃあ何処にいるって言うのよ!」


やっとの思いで辿り着いたキルシュにとって、それはとても悲しい事でした。
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