さよなら、もう一人のわたし (修正前)
 あたしが喉の渇きを覚えてリビングに行くと、リビングの電気がついていた。

 そこでうつ伏せになって、監督が眠っていた。

 自分の部屋で眠ればいいのに。

「監督? おきてください」

 しかし、あたしの声が聞こえているのかいないのか、全くの無反応だった。

 あたしは彼の横顔を見る。

 五十近い彼の年齢を考えたら、若く見えるほうだろう。

 でも、彼の目じりにはしわがあった。

 母親と一緒のときはなかったかもしれないしわ。

 どうして彼は母親と歳を重ねることを選んでくれなかったのだろう。

「あなたは本気で母を愛していましたか?」

 あたしは帰ってくることのない問いかけを投げかけていた。

 あたしは首を横に振ると、電気を消してリビングを後にした。



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