天空のエトランゼ〜赤の王編〜
「この瞬間を待っていた!」

中西の頭を串刺しにしたピュア・ハートを握り締めながら、カレンは勝利を確信した。

浩也と別れてから遠目で、特別校舎に向かう中西の姿を確認し、悟られないように気を消して、後をつけていたのだ。

高坂達がやられている時も、ぐっと我慢して…時を待っていたのだ。

突き刺した刀身から、相手の肉や情報…能力を喰らう。それが、ピュア・ハートの特質だった。

女神を喰らうということは、その能力を手に入れたということになる。

(これで…神レベルとも戦える!)

心の中で、歓喜の声を上げたカレンに対して、串刺しになっている中西が笑った。

「喜ぶのは、早いのではないか?」

「何!?」

カレンは、片眉を上げた。

その時、空気が裂ける音がした。

「!?」

反射的に地面を蹴って、カレンは後方にジャンプした。

ピュア・ハートを、抜く暇もなかった。

いや、抜いていたら…死んでいた。

カレンの胸元に真っ直ぐ傷が走り、鮮血が噴き出した。

「え?」

カレンは混乱する頭を無視して、状況判断の為に前を見た。

振り向きざまの中西の手刀が、カレンを斬ったのだ。

「ク!」

歯を食いしばると、全身に力を込めた。

ほんの一瞬の気の緩みで、人は死ぬのだ。

臨戦体勢を取ったカレンを見て、中西は鼻を鳴らした。

「イオナの力も借りずに、生身で…このレベル!大したものだが」

そして、後頭部に手を回すと、ピュア・ハートを抜き取った。

「俺には、通用しない!」

「な、なぜだ?」

カレンはブラックカードを取り出し、指で挟むと、魔法を発動させた。

「風よ!切り裂け!」

中西の周りの空気がざわめき、風が渦を巻くと、下から一気に筒のように全身を包む。

「無駄だ」

筒の中で、中西が両手を広げると、風は消えた。

「どうして!」

目の前で起こった事が理解できないカレンは、必死で考えた。今、何をされたのかを。

「カレン!」

戦う為に考えてしまったことが、仇となった。

九鬼の叫びで我に返ったカレンの目の前に、ピュア・ハートを持って突進してきた中西がいた。


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