先生の青




辺りが静かになって
壁際から顔を出すと



三島先生は顔を
苦々しく歪めて
男子たちが走り去った方を
にらんでた。




三島先生の
駆け抜けて行った道には


彼が持ってたんだろう
ゴミ箱とゴミが散乱してた。



教室のゴミ箱を地面に置いて
先生のゴミ箱とゴミを集めると



「悪いな、木下」



先生も しゃがんで
地面に散らばるゴミを
拾い集めた




私は地面を見つめたまま


「怖くて身体が動かなかった」


本当は今も胸が苦しい


先生は一度しっかり
私を見てから



「当然だ。
あんな場面に出くわしたなら
自分一人で行かずに
すぐ誰かに助けを求めなさい」


誰かに助けを


今じゃ教師だって
生徒からの報復を恐れて
見て見ぬふりをする人が多い



誰が助けてくれるか
私には わからない



ゴミを拾い集めて
先生は立ち上がった



一緒にゴミ捨て場に
ゴミを捨てて



先生は軽く伸びをした。


「……先生は怖くないの?」


私が訊くと
先生は少し考えるように
首を傾げ、目線を上げた



「自分の正しいと思うことを
出来なくなる方が怖いよ」



あまりにも
フツーの顔して言うから



何も返せなかった。




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