先生の青




温まったピラフと
スプーンを持ち
リビングのテーブルへ



ラップを外すと
モアッと湯気が上がる



「…いた…だきます」


口に出した言葉に違和感
私って本当に挨拶の習慣ない
「いただきます」なんて
久しぶりに言った




そんなことを思うと


「…どうぞ召し上がれ」


こちらに背をむけたまま
先生が言った。



ピラフをすくうと
カチンって
皿とスプーンの当たる音が鳴り



一口食べると



「………美味しい…」


無意識にこぼれた言葉


英雄さんと付き合ってから
あの家に入ってから


食べ物の味なんて
全然 感じなかったのに



「たかが冷凍ピラフに
美味しいって
幸せだな、木下……

オレはもう食い飽きて
美味しいなんて思わないぞ」



クスクス笑いながら
先生は言ったけど



たかが冷凍ピラフが
涙が出そうなくらい
美味しくて



それは きっと
先生の前で
私が気を許してるから



英雄さんの前で
家の中で
ずっと緊張して



学校では
悩みのない
普通の女子高生をして



私、ずっと ずっと
気を張ってたんだ……



今、そのことに気がついた





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