【短編】鐘の音が聞こえる
「どうして、私を待っていたの?」



「奈緒に伝言を頼まれたんだ。」



「…私に?」



私は、まじまじとケンの顔を見た。



「うん。」



ケンは元気に笑って頷いた。



「…誰から、頼まれたの?」



私は思わず、ケンの肩を強く掴んだ。



「い、痛いよ、奈緒。」



ケンは顔をしかめる。



「ご、ごめ…」



私は抑えられず、ポロポロと涙をこぼしていた。



「ケン… あなたは一体、誰…? どうして私の夢に出てきたの? どうしてここに…?」



私がそう口にした時、空からは粉雪が白い光とともに降りてきたのだ。



「通りで冷えると思ったら…」



ケンは空を見上げた。



ヒラヒラと舞い散る雪は、まるで天使のように優しかった。



思わず、手の平を空に向ける。



「…雪」



私は静かに降りてくる雪にせつなさを感じずにはいられなかった。



「奈緒、バスに乗ろう」



そんな私の気持ちを掻き消すかのように、ケンが突然そう言い出し、私の手を無理矢理引く。



「バスって… この時間はもう出てないでしょ…」



私がそう言った時…



思わず腕時計を見たほどだった。



こんな時間に、バスが止まってる…?



ケンがバスの前のドアの扉に立つと、扉は開いた。



私が呆然として立っていると、彼は「早く」と言いながら、手招きをする。



私は半信半疑で、そのバスに乗り込んだのだ。







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