【短編】鐘の音が聞こえる
泣いてるの…? 健…
どうして、あなたが泣くの…?



私は思い出していた。



そう。バイク事故で帰らぬ人になった、健。



二年前の今日。


今のような、白い雪が舞う夕方5時の約束。


彼は職場を出遅れて、急いで駆けつけていた途中



飛び出してきた子どもを轢きそうになって



よけた弾みで車道に倒れ込み



車に轢かれて



死んでしまった。



私が早く会いたいからって、無理やり5時に待ち合わせにしてもらって彼を急がせた。



彼を死なせてしまったのは、自分…



クリスマスの楽しい音楽が、一瞬にして悲劇の唄に変わった瞬間だった。






あの日から私は記憶をなくした。



思い出したくなくて
心の奥に無理やり閉じこめて

誰を愛していたか
どんな想いを抱いていたか
何が起きたのか


そのすべてを心の闇に葬った。





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