【短編】鐘の音が聞こえる
いつしか交わした約束の日は、クリスマスイヴ。



そんなことすらも心の闇に置き去りにしたまま、寒空の下、ひとりでここで誰か待っていた私。




ただそうしなければならない、というだけで、意味は分からなかった。



何となく向かう、あの場所の途中、誰も待っているはずはないと、わかっていた。



でも、こんな時って、わずかな期待を信じてしまうものだ。



何の期待?
誰が私を待っているの?



のどまで出てきている『答え』は、自分自身で見つけることはできなかった。



だから、待つ。
待ち続ける。



その意味がたった今、分かった。



その場所にいざ立って、いないことを確認しても、何度も探してしまうのだ。


彼のバイクを
彼の姿を
彼の驚いた顔を
彼の笑う顔を


でも、いない。

わかってる。
わかってる。


そんなことを思っているのは自分だけなことくらい。


でも、ここから動けないの。
何度も顔をあげて、探してしまうの。



約束の時間は、とっくに過ぎているのに
来るはずなんてないのに
意味がないことをしていることだって



わかってる



わかってるのに。がっかりすることを
わかってるのに。泣いてしまうことを



それなのに、探してしまうの……



信じたかった。
同じ気持ちでいるということを…









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