【短編】鐘の音が聞こえる
「奈緒は、そのまま生きて行くの?」



「…私が新しい恋をしたら、健は本当に死んでしまう。私には、待つしかできないの」



私の溜息は、凛と冷える夜空に散った。



「それは、間違ってるよ」



健は言った。



「え?」



私は彼の顔を見る。



「俺が死んだのは、奈緒のせいじゃないよ」



彼は優しく私の頭を撫でた。



「奈緒が新しい恋をしても、俺は奈緒の心の中で生き続けるよ。死になんてしない。」



私は首を横に振った。



「違うんだよ。…こうして待ってるとね、ひょっこり現れる気がするの。『ごめん、遅くなって…』あなたの声が聞こえる気がするの。私がちゃんと迎えてあげたいの。」



それが私の喜びであり、"生きる意味"なんだよ……



すべてが涙で霞む。



「それは、今日で最後だ」



私は顔をあげる。
見つめた先は健の目だ。



どうしてそんなに優しい目をしていられるの?
もう会えないの?
やっと会えたのに、本当にもう会えないの?




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