【短編】鐘の音が聞こえる
その時、微かだったが、鐘の音が聞こえた。



美しいその音が次第に大きくなってくる。



私は不意に顔を上げ、辺りを見渡した。



「ありがとう、奈緒」



目の前にいる健の全身が、光に包まれていた。



その光の中で安心そうに微笑む健…



「もう、時間だ… 奈緒、おいで」



健は両手を広げた。



私はそんな彼に飛びついた。



「あぁ… 暖かい…。さっきの缶コーヒーなんかと比にならないな」



最後だ。
本当に最後なんだ…



「健…」



「ん?」



「会いに来てくれてありがとう…」



とてもとても小さな声だった。



「うん…」



健の穏やかな声が私の耳をかすめたその時…









光は完全に消えた。








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