【短編】鐘の音が聞こえる
すべての雑踏が消え、すべての建物の電気が消え、照らすのは今座っているベンチの上にある街灯だけ



隣に座っていたケンはどこにもいなくて、私はまわりを見渡した。



「ケン?! ケン?!」



私は構わず、ケンを呼び続けた。



「奈緒」



落ち着いたその声は…



ケン…?



私は立ち上がり、その声の主を探した。



「ケン… どこにいるの?」



弱々しい私の声が響く



「奈緒。約束してよ。」



姿が見えないまま、声だけが聞こえる…



「…約束?」



「新しい恋をして、幸せになることを。」



なに…?



どういうこと……?



「何を言ってるの…?」



強いめまいに襲われ、私はぎゅっとつぶった。



「ケン… どこにいるの… 私をひとりにしないで…」



「奈緒…」



私は苦しくて、うずくまった。




ケン…
ケン…
ケン…





どこに、





いっちゃったの…?








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