奉公〜咆哮1番外編〜
 既にお解りの通り、ラマネリの王子は男色の気が有るようだ。今も俺と栗原とに挟まれて、たいそうご機嫌である。

「まず、王子は若野ブロードウェイとやらに参られたいとご所望です」

 ジャパニメーションにご執心の王子は、オタクの隠れたメッカであるそこに興味をいだいていた。空港から小一時間、俺達は電車で移動し、王子の到着を待つ。

 遮蔽物の無い空間では相互に伝達の【闘】(トウ)で会話が出来る俺達だが、今回は現場の状況が様々に変化するので、利便性等を考えインカム式のトランシーバーを携行し、持ち場へ着いた。

「商店街に入ってからは閉鎖空間だから遠方監視の必要も無いだろう。
 里美も降りて来て俺達と合流しなさい。そして栗原はいつでも【列】(レツ・盾)を張れるように準備しておけよ?」

『解ったわ?』「了解です」


───────


 暫らくして黒い大型のリムジンが若野駅前ロータリーに入って来ると、芸能人が来たとでも思ったのだろう、いつしか黒山の人だかりが出来ている。

俺は【在】(ザイ・洗脳)を使って野次馬を遠ざけながら栗原に【列】を張らせた。

俺と栗原が息継ぎする時や連絡等で会話している間は、里美が【列】と【在】を使い分けてバックアップする。

「関口警部、聞こえますか?」

『極めて感度良好です。丸対(マルタイ・警護対象)の周囲に不穏な影は見受けられません。
 ……しかし、面白いように人が避けて行きますね』

 監視・狙撃の指揮を取る関口警部はこの道のエキスパートだ。俺達は少し安堵して王子を商店街へ案内する。

古内警部補や関口警部は音力付きの所轄として術の正体を知っているが、監視を行っている他の警官達には詳しい事を一切伝えていない。

俺達の周りに人が寄り付かないこの光景を、彼等は奇異な物として見ているだろう。

勿論関口警部との通信は監視・狙撃隊とは別回線で行われている。


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