香る紅
「・・・本当に、大丈夫なのか・・・?」

車内に乗り込んだあと、運転席とは隔離された後部座席で、緋凰はいつになく弱気な表情で恐る恐る私に手を伸ばしてきた。

あれ?機嫌直ってる?

「本当よ。しっかり寝たもの。」

緋凰の手が頬をなで、髪をすく。

・・・なんか、緋凰が優しいの、久し振り・・・。

私が倒れたからかな、でもそのせいだったとしても、嬉しい。

・・・だけどこれだと、また、私、私を甘やかしてしまう。

そこでふと、昨日見た夢が現実かどうか確かめたくなった。

「ね、昨日、私が寝てるとき、そばにいてくれた?」

緋凰の手が気持ち良すぎて、眠ってしまいそうになる。

調子に乗って、緋凰の方に頭をもたれさせてみた。

「・・・覚えてたのか。寝ぼけてるだけだと思ったのに。」

それは拒絶されずに、しっかり抱きかかえてくれたけど、照れくさそうに窓の外を向いてしまった。

いつものクールな緋凰には悪いけど、なんだか、かわいくてしょうがない。

「夢かと思ったの。緋凰がいてくれるなんて、幸せで・・・」

拒否されないのをいいことに、もたれかかったまま、体を緋凰の方へ向けて、抱きつく形になる。

「夢じゃねぇよ。俺がいるだけで幸せなんて言えるんだから、織葉は単純な」

言葉は小馬鹿にした感じだけど、誇らしげに話して、抱き込んでくれた。

けど、眠そうな私を見て、また、心配になったらしい。

せっかく優しく微笑んでたのに、最初の不安そうな表情に逆戻りしてしまった。

「・・・きつくなったら、言えよ・・・?」

「大丈夫、だもん・・・。」

具合は大丈夫だったけど、緋凰の隣、緋凰の腕の中が心地よすぎて、学校に着くまで眠ってしまった。

緋凰が優しいのをいいことに、また甘えてしまったことを、学校についてから後悔した。





< 21 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop