黒猫前奏曲
「はぁ~、心臓に悪い」

先程まで、緊張のあまり直立不動で立っていたが、電話が切れた途端、いっきに脱力ししゃがみこんでしまった。

「俺、一生高沢さんには逆らえない気がする」

道成は、今まで怖いと思うことなかったが、初めて誰かに対して怖いと感じてしまった。マリアの携帯を元の場所にもどすと、先ほどと変わらない様子のマリアの隣りに腰を下ろした。

「マリア、聞こえるか?高沢さんが今から迎えにきてくれるって」

自分の声が届いているかはわからないが、現状を報告すると、ある言葉にマリアは反応した。

「た、かさわさん?」

マリアが道成の言葉に反応を返す。それに対し喜びを感じつつも、それが自分ではなく、高沢のおかげだと思うと道成の心は嫉妬心で埋め尽くされた。

「ボスがくるの?ここに?」

先程とは打って変わり、強張っていたマリアの表情が少しだけ緩和される。道成はそれ以上言葉が出ず、マリアと見つめあっていた。


「マリア!?」

道成が自問自答し落ち込んでいると、ワゴン車から人が飛び降りてきた。

「おい、マリア!?大丈夫か?」

一目散にマリアへと向かってきた高沢は、マリアの肩を掴み、顔色を窺っていた。

「高沢さん?とりあえず、マリアちゃん連れて帰りませんか?」

道成が声の方へ振り向くと、ワゴン車を運転する阿久津の姿があった。

「あぁ、悪い。すぐ連れて行く」

高沢はマリアを抱き上げると、ワゴン車に向かっていった。
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