いつでも逃げられる
私の蹴り足が、肩が、男にぶつかる。

女とはいえ、全力で抵抗して暴れているのだ。

それなりに痛かったに違いない。

それでも男は私に反撃しようとはしない。

ただ、絞ったタオルを私の背中に当て、汗を拭う。

「っっっっ!」

面識もない男に素肌を触れられる嫌悪感。

私は鋭く息を飲み、尚も抵抗を続ける。

思いっきり蹴り足を突き出してやった。

つっ!と、思わず男が声を上げる。

それでも彼は怒らない。

やり返しもせず、怒鳴りもせず。

ただひたすらに黙々と、私の体を濡れタオルで拭いていた。

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