いつでも逃げられる
「ねぇってば…ねぇ!」

少し大きな声で呼びかける。

すると。

「すー…すー…」

小さな寝息が耳に届いた。

男は『獲物』たる私を前にして、無防備に眠ってしまっていた。

私が呼びかけても気づかないほどに。

「……」

息を飲む。

チャンスじゃない!

今なら私、逃げられるかもしれない…。

ゆっくり、物音を立てないように立ち上がる。

忍び足で前へ。

「すー…すー…」

男は本当に目を覚まさない。

四六時中私の監視、そして食事や身の回りの世話。

相当に疲労が溜まっているのだろう。

泥のように眠っていた。

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