いつでも逃げられる
私の食事を済ませ、自分の食事を済ませ。

「さぁ、体拭いてあげるね」

男は日課のように、バケツに水を汲んで、タオルを絞る。

「……」

私は大人しくしている。

最近では身を硬くする事もなくなった。

彼が何もしない事が分かっているから。

それは、私が彼を信頼し始めているから…最初はそう思っていた。

だけど違うかもしれない。

丁寧に、懸命に、私の体の汗を拭き取る彼の手を感じながら思う。

…私は落胆しているのだ。

毎日のように私に触れながら、何もしてこない彼に落胆しているのだ。

私には魅力を感じないのかしらと、真剣に悩む恋愛中の女の子のように。

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