グッバイ・マザー
 駅までは姉が送ってくれた。今年購入した紺色のミニクーパー。シートには赤いカバーが掛っている。小さな車なので、大人が二人乗ると車内は結構窮屈になるが、元々母の送迎の為に買ったものだから仕方ない。
 姉は女子大生らしくショートトレンチに白のパンツという恰好だ。背中まで伸びた長い髪に、薄くメイクを施している。足元はアウトレットで奮発して買ったミュウミュウのパンプス。脇に置かれたバックはバイトをして買ったサマンサタバサ。
 駅までの道程を、僕達は黙って過ごした。途中、道が混むねとか、お土産は何がいいかとかくらいは話したと思うが、二人とも会話らしい会話はしなかった。
 駅のロータリーでハザードをたき、姉の車は停車した。周りはサラリーマンや学生でごったがえしている。僕のように車で送って貰っている人もちらほらいる。
 「気をつけてね。」
「うん、ありがとう。姉貴もね。」
 窓が閉まる。姉は母によく似た顔に笑みを浮かべ、ゆっくりと後進で僕から遠ざかっていた。
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