この空の彼方
少し厳しくしすぎたかしら?



ううん、あれくらいは自分でなんとかしないと。



強い子になって欲しい。



灯世はふぅと息をついた。



久々に1人になれた。



そして、芦多を思い出すのも、久々…。



辰清といると、どうしても子どもに気がいって、芦多のことを考えている余裕がなくなった。



怖い。



このまま芦多が薄れていきそうで、怖い。



灯世は肩を抱いた。



こうして抱いてくれた腕も、声も、私を見ていた目も、記憶から思い出にかわる。



他の全てを忘れてもいい。



芦多様だけ、しっかり覚えていたい。



ガサリ、と木が動いた。



ハッとして立ち上がる。



「誰?」



誰も、答えない。



しかし、誰かはいた。



職業柄、気配には敏感になっている。



…今は奥方でもあるし。



灯世はじりじりと後ろに下がった。



中に、入らなければ。




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