この空の彼方
「灯世はここを出たくはないか?
自由になりたくないか?」



自由。



頭の中でその言葉が反響する。



生まれてこの方、一度も自分の意思で動いたことがないことに気付く。



自分の家とこの屋敷しか知らない。



好きな人と一緒に、好きなところで生活していく。



夢のような話だ。



「辰清もいないここに何の意味がある?」


「行きたい。
私、芦多様と一緒に行きたい。」



でも、と灯世は顔を覆う。



あとのことを考えると、怖い。



きっと、いや絶対芦多はお尋ね者だ。



「灯世。」



見上げると、真剣な顔。



「私は覚悟は出来ている。
灯世を連れ出すためにここに帰ってきたようなものだ。」


「…準備します。
まず母様に別れの挨拶をしなきゃ。」


「紹介して欲しい。」



灯世は、ぎゅっと芦多の手を握った。



「はい。
…そうと決まったら行きましょう。」



なんだか、急な展開だ。



上手くいきますようにと祈りながら、灯世達は部屋を出た。







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