この空の彼方
またまたボンッと赤くなる。



「耶粗、からかうな。
灯世は純情なんだよ。」



うふっと笑った千歳も人が悪い。



余計に灯世を俯かせた。



「いい加減にしろ。」



言ったのは芦多だ。



ぐいっと灯世を引き寄せる。



予期していなかった灯世は芦多の胸にぶつかった。



「おおっ、旦那が怒った。」



旦那、という言葉にまた赤くなる。



今さら何を、と自分でも思うが。



「散れ。」



言葉自体は毒があるが、口調はそうでもなかった。



「へいへい、わかりました。」



のっそと立ち上がる。



耶粗は少年を引っ掴み、ニヤニヤとして歩き去った。



そして、爪鷹の捨て台詞。



「素敵な夜を。」



語尾に何かピンクのものがつきそうな甘い声、爪鷹がそんな声を出せるのかというような声を出し、爪鷹はビタンと障子を閉めた。



芦多はげんなりとして手を振った。



灯世はこれまた赤くなる。



今日、何回目だろう。



しーんとなったところで、芦多が短くため息をついた。



「やっと静かになった。」



振り向く芦多は笑顔だった。



「そして、やっと二人きりになれた。」



こつんと額を合わせ、芦多が小さく呟く。



口元が笑っていた。



灯世もフフッと笑い、顔を上げる。



期待した通り、唇が重なった。




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