この空の彼方
坊主頭に、袈裟に似た着物。



顔には深いしわがいくつもあり、高年齢を思わせた。



戦場だというのに、もう声は何も聞こえない。



いつの間にやら、霧のようなものが漂っていた。



「主、敵軍の大将か?」



厳かな声。



芦多はただじっと彼を見返すだけだった。



「ようやっと会えたな。」



無感情な目を、芦多に注ぎながら、彼は言った。



「お前は、誰だ。」



芦多は喉から声を絞り出すように、尋ねた。



ここでようやく、男は芦多と目を合わせた。



「私は蛇儒(ジャジュ)。
海澱の術者の頭だ。」



ぞくりと、背中に悪寒が走った。



この男が、術者。



やせ細った長身の男。



ぎょろりとした目を向けられると、身体が竦んだ。



「主は?」



芦多は腰を落としたまま、相手を威嚇するかのように、名乗った。



「三芳ノ国、一番隊隊長、芦多。」


「ふむ、隊長。
…若いな。」



その言葉がどちらの意味なのか、考える余裕がなかった。



どこか、油断のならない雰囲気を醸し出している蛇儒が怖かった。



「何をした。」



低い声で問うと、蛇儒は首を傾げた。



「今、なんの術を使ったのだ。」


「時を、止めた。」


「止めた?」



芦多は訝しげに蛇儒を見上げる。



時を、止めただと?



そんなこと、出来るはずがない。



自然の理を無視している。



< 418 / 460 >

この作品をシェア

pagetop