この空の彼方
灯世と別れて角を曲がると、正隆が腕を組んで待っていた。
「どうだった、久し振りの逢瀬は。」
「人聞きの悪い。
堂々と会ったじゃないか。」
芦多の反論を鼻で笑って片付け、正隆は芦多の前に仁王立ちした。
「芦多、どうして名を隠す?」
「言っただろう、辰之助様の影をするときにうっかり呼ばれでもしたら…。」
「灯世殿はお前達の見分けがつく。
だろう?」
芦多は黙って頷いた。
「なら、たとえ名を隠したところで何も変わらないだろう。」
なぁ、芦多。
正隆は射ぬくような目を芦多に向ける。
「型だということに一番こだわっているのはお前なんじゃないのか?」
芦多の頬にカッと血が昇った。
「隠しても公の場で名前を呼ばれるだろうが。
結局は他人の口から漏れる。
なら、自分から言った方が灯世殿もいいんじゃないか?」
理屈はそうだ。
だけど、なぜか言ってはいけない気がした。
だから、黙っていたんだ。
「お前の用心深いところは長所だ。」
正隆に促され、芦多は歩き出した。
「だが、短所にもなりうる。」
「俺は情けないな。」
「いや、長所だと言っているだろう。」