そらのウエ
序章
「あれがデネブだ」

 懐中電灯で指されたその星は他のどの星よりも輝いて見えた。脈々と光度を変えているようにも見えて――

「確かに」

 見知らぬ男が頷く。

「脈動変光星だからね。でもその変化は肉眼では確認できない、とされている。今、光度が変わって見えるのは恐らく上空大気の揺らぎが原因だろう」

 懐中電灯から伸びた真っ直ぐな光は夜の森の静けさの中を突き抜け遥か3000光年先のデネブを捉え続ける。

「別名デネブシグニ。またはアリデッド。デネブはクジラ座やワシ座にもあってね、区別を兼ねて学者の間ではそう呼ばれる」

「へぇ……」

「他の一等星を全て足してもその光度はこのデネブの半分にも満たないんだ。しかしね……」

ふと、懐中電灯の光が消える。

「もうすぐ寿命なんだよ――」




 小学校六年の夏の夜の記憶である。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop