神様のきまぐれ
 

アンコールまで、
あっという間だった。


『アンコール』の声が響く。
悲鳴みたいに、聞こえる。


汗を拭いてもらって、
薄暗いステージに、
メンバーと共に
もどっていく。


ドラム横の
コーラスマイクの前に立ち、
志央に小さく合図する。


アンコールステージが始まる。


薄暗い照明のなか、
志央と私だけが、
スポットに浮き上がる。


真っ白の光のなか、
客席すら見えなくて。


いつもと違う雰囲気に
どよめく客席。


メンバの殺した気配を、
肌で感じる。


志央は、構わず
歌い始める。


この空間に感じる
意味のある音は
歌詞とメロディラインだけ。


それは、まるで、
恋人からの言葉の様で。

私は、声を重ねる。


驚くほど、
セクシーな衣装に
着替えた理由も、
今なら理解できる。


今だけは、志央が恋人。


目の慣れる事のない光の中で、
自分が歌い演じるのは、
志央の恋人であり、
彼に対する情熱。



ここで聴いている
お客様達自身が、
恋人と気持ちを
重ねていると
思えるように。



 
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