神様のイタズラ
小春
 川上小春。
 25歳。
 塾講師。
 腐れ縁の彼氏が一人。
 お風呂上がりのビールが一日で一番幸せな瞬間。
 煙草は可愛いげのない赤マルを1日半箱くらい。
 趣味、2時間ドラマ鑑賞。
 子供の頃は20歳になったら結婚するんだ、と決めていた。
 何も知らなかったあの頃の自分が愛おしい。

 塾講師の仕事は夜が遅くて、終電を逃すことも少なくない。
 だから通勤は車。
 駐車場代をケチって路駐して、切符をきられることもある。
 それでも、金額に上限のない最寄りのコインパーキングに一日中停めるよりはいいかな、なんて子供達にモノを教える講師がこんなんでいいんだろうか。

 今日も、生徒集めのチラシのポスティングを2千枚終わらせて車に戻ると、サイドミラーの根元に見慣れたチェーン。
 そこからぶら下がる黄色くてでかい札。
 「やられた…。」
こいつを無理矢理取る方法もあるとかないとか。
でも度胸がないから、諦めて管轄の警察署に向かう。
 いつも不思議に思うのは、違反切符をもらいに来ても怒られないこと。
 むしろ窓口に立つ怒られお巡りさんは優しい。
 原付で通勤してた頃よくお世話になった白バイの人は大抵怒ってたのに。

 拇印を押すために指につけた特殊なインクを、お巡りさんが差し出してくれたティッシュで拭ってると、ポケットの中で携帯が震えた。
 誰からか、画面を見なくても分かった気がして、少しうんざりする。
 必要以上に念入りに指先を拭ってから車に戻って携帯を開く。
 やっぱり。
 気付かなかった振りをしようか悩んで、画面をぼーっと眺めていると、また着信した。
 「はい。」ため息混じりに応答する。
 「こはぁ、仕事終わった?」と、酔っ払った声。
 後ろでダーツマシンが出す音が聞こえる。
 「終わったところ。」
 ズキュン。ブルに命中。
 「車だよねぇ。Pまで迎えに来てよぉ。巧もいるから送ってあげて、もう電車ないから。」
 だと思った。
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