桜の下で ~幕末純愛~
桜夜が目を細めた。

「どうした?」

「向こうには電気なんてないから…眩しい…」

だから余計に月が綺麗に見えた…。

「消すか?」

「ううん。平気」

認めたくないけど…これからはこっちの生活に馴れなきゃいけないから……。

辺りがすっかり闇に包まれた頃、玄関から懐かしい声がした。

「ただいま」

足音がリビングに近づく。

リビングの扉が開けられたと同時に美沙子の目に飛び込んだのは待ち続けていた我が子の姿。

バサッと美沙子の持っていたバックが床に落ちる。

「桜夜!」

真っ直ぐに桜夜へ駆け寄り、きつく抱き締めた。

「お母さん…」

総司…おかしいかな?お母さんに会えて嬉しいんだよ?

総司と一緒に過去で生きていくって決めてたくせに…。

暫くすると桜夜の体が離された。

「お帰りなさい。無事でよかったわ」

涙ぐんだ美沙子の顔を見ていると桜夜の目も潤んでくる。

体中の水分が飛んでいっちゃうよ…。

「心配かけてごめんなさい」

「着物なのね。髪もずいぶんと伸びて…」

江戸時代だし…髪を切るなんて考えもしなかった…。私は4年以上だけど、こっちは4ヶ月だもんね。

「うん」

「桜夜、話を聞きたいの。どうしていたのか…。すぐに話せだなんて急すぎるかしら」

そうだよね…聞きたいに決まってる。

けど、今すぐ総司の事を話せだなんて…。

…泣いちゃって話せないよ。

「ごめんなさい。まだ心の整理がつかないの…」

寒い…クーラーのせい?

夜風に当たりたい…。

桜夜はブルッと震えると立ち上がった。

「お母さん、会えて本当に嬉しい。……けど、少しだけ一人になってもいい?」

「どこかに行くつもり?」

「ううん。部屋に居るから。…クーラー、寒いの」

桜夜はそのままリビングを出ようとする。

「おいっ。おばちゃんがどんだけ心配したと思ってんだよ!」

桜夜の背中に哲也が怒鳴る。

「哲くん、いいのよ」

美沙子が哲也を止めた。

「今はそっとしておいてあげて?桜夜は戻ってきたのよ。それでいいじゃない、ね?」

…お母さん、ありがとう。

桜夜は静かにリビングを出ていった。
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