桜の下で ~幕末純愛~
部屋に入ると蒸し暑い空気がまとわりつく。

暑い…

電気を付けずに窓を開けて月を探す。

ねぇ、総司…見えないよ…。外も電気がいっぱいで…月が見えないよ。

総司…あの家で体だけ残されて…どうするの?

ああ…きっとナミさんが見付けてくれるんだろうね。

私が消えていてナミさんはどう思うんだろう。

そうね、ナミさんなら心配してあちこち探してくれるんだろうね。

本当は未来の人間だったって言えばよかった。

ナミさんにはちゃんと言っておけばよかったな。

ひじぃは今どこで戦ってるの?

鉄砲に気を付けなきゃダメだよ?

近藤さん…もう捕まってしまった?せめて武士らしく散れたらよかったのにね…。

新八さんは生き残れるんだよね?

けど、新八さんの事だから戦が終わっても落ち着いてなんてなさそうだね。

左之さん?新八さんと離れちゃダメじゃない。

唯一、背中を預けられる人でしょ?

二人で笑いながら喧嘩しててくれなきゃ。

山南さん、平助くん、烝くん…天国で総司に会った?

総司は笑ってる?

きっと総司と山南さんでちびちび呑みながら、総司は平助くんをからかって…烝くんがケタケタと笑ってるんじゃない?

栄太郎、総司に会っても斬りかからないでよ?

そんな事したら許さないからね?

桜夜はぼんやりとしか見えない月に向かって話しかける。

まだ総司がいなくなって一日も経ってない…。

そんなんで帰されたって困るじゃない。

数刻前までここに触れていたのよ?

桜夜は沖田が触れていた頬に手を当てる。

数刻?私ってば…すっかり江戸時代に馴れちゃってるじゃない。

こっちで生きて来た時間の方が長いのに…。

ねぇ、総司。教えて?どうしたら笑えるの?

きっと今頃、呆れ顔してるよね。

けどね、天寿っていつなの?今すぐに迎えに来て?

いい子にしてろってどうすればいいの?

無理でしょう?魂の半分が先にいなくなったのよ?

桜夜はいつまでも空を眺めていた。

コンコンとドアを叩かれる音ですっかり明るくなっている事に気付く。

「桜夜。起きてる?」

お母さん…

桜夜はドアを開けた。
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