桜の下で ~幕末純愛~
4年以上前の出来事も昨日の事の様にはっきりと覚えていた。

そして沖田の最期を話す時になると声が震え出す。

それでも涙は見せずに全てを話しきった。

相当な時間がかかったが、美沙子は最後まで目を逸らさずに聞いていた。

「―― これが私の過ごした日々の全てです」

桜夜が話し終えた時、美沙子は涙を流していた。

「お母さん?」

「皆さんにお礼を言わなくちゃいけないわね。桜夜を守ってくれて…」

ヤダ…そんな風に言われたら…我慢しきれなくなるじゃない…。

そして美沙子は桜夜の横に座り直すとそっと肩を抱いた。

「総司くんの事…辛かったでしょう?よく頑張ったわね」

その言葉に堪えていたものが一気に溢れだす。

「辛いの…。今も辛いままなの。忘れるなんて出来ない…。まだ愛してるのに。どうして総司は私を置いていったの?看病だって苦じゃなかった。生きていてくれるだけで幸せだったのに。約束したんだよ?離れないって。総司だってそう言ってたのに」

沖田への想いだけが溢れて止まらなかった。

「時間が経てば忘れられるの?そんなの無理。情とか錯覚とかじゃない。総司は私そのものだったの」

美沙子は泣き崩れる桜夜の背中をただ摩るしか出来なかった。

桜夜が少し落ち着いてきた頃、美沙子が話し出す。

「桜夜の辛さ、本当に理解する事は出来ないのかもしれないわね。けど、大切な人を失う悲しさは分かるわ。時間が解決するなんて思わないわよ。でもね、いつかは桜夜にも笑顔になってほしいわ」

あ…お母さんもお父さんを失ったんだ…。

美沙子の思いに桜夜の涙が止まる。

「…ごめんなさい」

「いいのよ、謝る事じゃないわ」

すると玄関から声がする。

「ただいま~」

哲?どうして哲がただいまって言うの?

「何で哲がただいまって?」

美沙子はクスッと笑い、今度は桜夜が居なくなってからの事を話しだした。

哲也は一人になった美沙子を気遣い、ここに泊まる様になったという。

毎日ソファーで寝起きする哲也に美沙子は客間を使う様に言った。

しかし沖田が使っていたところを勝手に使えば、桜夜が戻って来た時に嫌がるだろうと決して使わなかったのだと。
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