だから君に歌を
風が吹く。

ふわりふわりと、木葉を乗せて。

新しい季節がもうすぐそこまでやって来ている。

「そういや、」と、千雪を地面に下ろしながら思い出したように京平が呟く。

「島じゃもう桜が咲いたんだぜ。千夏見たいだろ?」

「…それって、遠回しに帰ってこいって言ってるわけ?」

京平がくしゃり、と顔を歪めて笑った。

「バレた?帰ろうぜ。俺達の家に。俺、千夏がいないとダメみたいだからさ。千夏俺の傍にいてくれよ」

「それって計算?それとも天然?タチ悪い」

「もちろん、計算。だって千夏は俺が好きなんだろ、だったらそれを最大限利用する」

千夏は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「ママ頭痛いの?」

千雪が心配そうに千夏の頭を撫で摩る。
壊れそうなほど柔らかくて小さな手は千夏のためにと必死だ。

千夏はそれを「痛くない」と言ってやめさせた。

ママと呼ばれるのはむず痒い。

「ママ、ちぃね、大きくなったらママみたいな歌手になる!ママのお歌大好きだもん」

「…」

「ママまたテレビ出る!?」

キラキラした瞳に見つめられた。
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