俺が大人になった冬
「あの、これ母からあなたに渡すように言われて」

俺はそう言って、とりあえず用意してきた菓子をテーブルの上に置き、女の方へ差し出した。

「これは受け取れないわ、なにもしていないし」

今までと明らかに違う雰囲気の女に戸惑いながら、俺は頭の中でどうすべきか迷っていた。

このまま菓子だけ渡して別の女を捜すか、直感を信じて「お礼は口実で、本当はもう一度あなたに会いたかったからだ」と、試しに言ってみるか……

さんざん迷って、迷って。

結局はじめに感じた勘を信じることにして、話を切り出そうとした。

しかし、

「実は……」

と、口にしたとの同時に、恥ずかしいぐらいに大きな音で俺の腹が鳴ってしまった。

うわ! タイミング悪っ! つーかカッコ悪すぎ!
< 21 / 286 >

この作品をシェア

pagetop