俺が大人になった冬
見事な腹の鳴りっぷりが可笑しかったのか、女はふっと柔らかい表情になり

「お腹すいてるの?」

と聞いてきた。

「あ、朝ごはん食べてなくて」

今朝は食費を節約しようと、朝メシを食べずに来てしまったのだ。

気まずい表情の俺に女は少し考えるように黙り込んだ後

「もし、この後あなたに予定がないようなら、お昼一緒に食べない?  ご馳走するから」

と、いきなり誘いをかけてきた。

皆がそうとは言わないけれど、俺が思うに、結婚している女だって「恋がしたい」とか「いつまでも女扱いしてもらいたい」と思っているに違いない。

そんな女たちはきっと、『キッカケ』を待っている。

自分からは先手を打たないけれど、こっちから近づいていくと乗ってくる。

やっぱり、俺の目に狂いはなかった。自分の女を見抜く才能に我ながら惚れ惚れする。
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