俺が大人になった冬
母親の言うことは分からないではなかった。

でも、納得はできなかった。

母親を守るのは自分だと思っていただけに、ショックだった。

裏切られた気分だった。

「その男と……そいつと一緒になるために、俺に「向井」のままいろって言ったのかよ! ふざけんなよ! ババァ!」

俺はそう言い捨てて家を飛び出した。

そして、たまたまエレベーターの前で会ったユカの家に泊まった。

はじめて女を抱いたあの日のことだ。

その日を境に、俺は母親と顔を合わせるのを極力避けた。母親の作った食事を食べるのも嫌で、金だけもらって外で食べるようになった。
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