色、色々[短編集]

 若いころ憧れた夢のようなクリスマスの過ごし方だっていうのに、現実はこんなもの。
 友達が彼氏にしてもらった素敵な聖夜を私も過ごさせて欲しいとひっそりと思っていた。この歳になっても夢見ていたわけじゃないけど、今、思い描いていた夢のようなクリスマスのまっただ中にいる。しかも相手が和也なのだからこれこそ奇跡だ。

 ただ、似合わない奇跡みたいなシチュエーションを考えるよりも現実を考えて欲しい。

 私にだって悪いところがあるのもわかってるんだけど!

 売り言葉に買い言葉みたいになって、余計なことまで口にしてる可愛げのない自分。
 こんなときに素直に喜んで、小さなことは気にせずニコニコしていられたら……。せっかく和也が1ヶ月も前から今日を考えてくれていたのに。

 居心地の悪い空気。

 なれないことをするからこんなことになるんだ。こんなことなら仕事でもしていたほうがマシ。クリスマスにこんな場所でばかみたいな喧嘩。このまま本当に別れでもしたら笑い話にもならない。
 かといって私から“ごめんね”なんて口が裂けても言えない。むしろ言って欲しいくらいだ。去年浮気してすいませんでしたって。謝られても素直に許せるかはわかんないけどね。

 申し訳ない気持ちと、それでもなくならないムカムカとイライラ。
 いくらするのかわからないけど口当たりのいいワインを、手持ち無沙汰で水のように飲み続けた。



「お待たせしました。本日のデザートです」

 むすっとしたままお酒を飲むだけの私達の間に、なにも知らないボーイがスマートに割り込んできて和也の目の前にお皿をおいた。

 濃厚そうなチョコレートケーキにアイスクリーム。湯気が出ているのでチョコレートケーキは温かいらしい。アイスクリームもじわりと溶ける。その上に、パールビーズの飾りが散りばめられていて、お皿にはチョコレートとラズベリーのソース。

「どうぞ」

 そう言って次に私の目の前に置かれたお皿。
 そこにはチョコレートケーキの代わりに、ダイヤの指輪がキラキラと夜景を反射させて輝いていた。

「……え?」
「あー……、えーっと……」

 和也も忘れていたのか、ハッとして気まずそうな顔をする。っていうか忘れてたの? なんなのそれ。
 これはもしかして……なんじゃないの? 当の本人が喧嘩で忘れていて今この状況で思い出すってどんなけ馬鹿なんだ。






「結婚、する?」

 和也はへらっとばかみたいな顔でそう言った。









「ほんっと可愛げないよなー。まあ、そんなお前になったら奇跡か」
「悪かったわね。でも、和也が大人の振る舞いができても奇跡よね」

 奇跡も素敵でいいかもしれないけど、やっぱり奇跡よりも現実的なもののほうがいい。
 サンタクロースも神さまも、悪いけど私達には必要ない。


 おしゃれなホテルのディナーでシャンパンより、小汚い居酒屋で焼酎のほうが、落ち着くんだから仕方ない。騒がしい、この焼き鳥屋のほうがついさっき食べたお肉よりも美味しいとさえ思う。

 腹も満たされなかったし、味もわからないままだった。
 結局こうして居酒屋で飲み直すことになっている。無駄金だったと和也がこぼして、私はケラケラと笑った。


 グラスを手にする私の左手の薬指には、見るたびに落ち着かないダイヤの指輪が光っている。





……Happy Merry Christmas!
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