きみに守られて
大人の狂暴的な力に
逆らえないユリツキの頭の中は、
白濁とした物が
満タンに注ぎ込まれたプールに、
自分がうかんでいるような
汚らしさがユリツキに襲う。

幾度となくユリツキの
柔らかい手のひらで、
快楽を貪った大人の男は
行動が大胆になっていき
ユリツキの髪の毛を掴み、
男の悪臭が漂う下半身へ導こうとした。

父親の恐怖、
小学校への畏怖、
睡眠だけがユリツキの楽しみであり、
寝る前の
ゆいいつ安らぎの場だった時間を
汚されたユリツキは発狂した。

父親の友人の腕を払いのけて
奇声を発し、
全裸になり家を飛び出した。

近所中に響き渡る泣き声を上げ、
走り回り、
刈り取り寸前の麦畑に逃げ込み
膝を抱えて弱弱しく眠った。

全裸で裸足、
足の指と左足脛の部分から
水が流れ出しているような
感触を感じたが、
わき腹を這いずり回る
未確認の虫と同じ様に
気にならなかった。

ユリツキは眠りにつきたかったのだ。
ただ昼間の現実を忘れて
眠りたかっただけなのだ。

(寒いよ母さん。
いつまでここにいたらいい?
もう車三台通ったよ・・
星が綺麗だよ・・・。
明日は正月だね・・・)

六等星までもが
はっきり輝き見える、
澄んだ空気の、冬の夜空がある。

ユリツキは安堵感に息を漏らす。

無償の安心感を無理やりに創造する。
胸を撫で下ろせる事を喜び、
強制的な、
紙芝居的な、
幸福らしい残酷にほっとする。

それらから眠気を得ていた。
ここで眠気が襲い来る感覚を
久々に得ようとしていた。

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