きみに守られて
正樹は父と母と妹の四人暮らしで
やはり農業を営んでいた。

原田家の前に立った時ユリツキは
たじろいだ。
単純に家という建物ではなく
英国風の洋館であった。

古典様式でスレートぶきレンガ造り、
外壁は赤味をおびた安山岩で
覆われており
建物全体が落ち付いた色調である。
”大正時代の貴族の邸宅”
のようであった。

緊張感をあおる無駄に大きい扉の前で、
きょとんと直立するユリツキを横目に
何度も来慣れた感じで優里が、
扉にぶら下がっていた
牛の鼻輪のような鉄の輪を
三度響かせた。

重々しくゆっくりあいた
扉の向こうに立っていたのは、
今農作業を終えたばかりなのか、
短髪で浅黒い中年の男が立っていた。

首から手ぬぐいをかけて
汗が乾いたばかりのようなTシャツ、
灰色の作業ズボンで、
便所下駄を履き裾の上から
軍足が重なっていた。

どこからどう見ても
お抱えの庭師の姿であるその男が
正樹の父、与一郎で邸宅の主であるらしい。

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