きみに守られて

「そうか、本当に皮肉な事だな。
この世界の多くの人達は
花には興味ないんだな。
商売にならなきゃ
誰も乱穫しねぇしな。」
淡々とした語調で言ったユリツキは、
優里の横を通りすぎて、
さきほど彼女が触っていた
ホトトギスに触れた。

優里は何かに祈り捧げるように、
十本の指を交互からませて
ジッと最初の位置で立っていた。
二人の背中だけが悲しげに向き合う。

「私!この世界にずっと・・」

「ダメだ!帰るんだ!」

振り向き優里の気配を存在を
心で全身で感じる。
「ユリはこの世界の人間じゃない。
ここには居てはいけないし、
例えここから遠くに逃げ出しても、
自動的にあの場所から、
また始まるんだ。
これは変わらない・・。
だったら、だから、せめて、
お願いだから、二人で最後まで
仲良く楽しく、生きて、
あの場所へ行こう。
ごめん怒鳴って・・。」

ユリツキの背中が、
何かに脅えたように丸くなり、
微かに震えた。

優里はそっと
その背中に額を預けた。
「ごめんなさい・・。」

「俺の田舎に咲く、
そのホトトギスを見て、帰ろうか?」

2人は来た道を帰る。
優里の手を引きながら
ユリツキは考える。
なぜ優里がこんな山奥で、
あの場所を発見したのだろうかと
考えている。

そして思う。

今までの、腐った過去の自分なら、
どう考えるかと思った。
もしかして、 自殺の場所を
探していたかもしれない。

と、微かに思った。

そして止めた。

そんな考えはもう意味ないのだ。
無駄なのだ。

優里があの場所を知ったのは、
正樹や久美子と
ピクニックついでに発見したのかしれないし、
たまたま散歩がてらに探検していて
発見したのかもしれない。

はなっから花に詳しい優里が
ホトトギスを目指して来たのかもしれない。


それはもう、
どれが、どうでも良かった。

今がこうして流れていれば、
それでいいだろうと思った。

季節は、
最後の冬を迎えようとしている
切ない赤染め空が、
一年で一番似合う夕空と
空気が栄える、秋だった。

河元百合月22歳、大島優里19歳。


< 182 / 198 >

この作品をシェア

pagetop