きみに守られて
『わかれ』
人がまばらで改札口が一つ。
北口と南口ある小さな駅。

南口には
やる気がなさそうな商店街。


見送りにきたはずの正樹の体が
泣き震えていた。
歩道と駅の入り口境界で、
男が泣いていた。
薄卵色と柑子色でモザイク調の、
レンガが敷かれた歩道側に立ち、
光沢を失いきった御影石模様風の
汚らしい床の駅構内に、
石のように固まった足が、
一歩踏み出せず、
ただ”忘れない、忘れない”と俯き、
涙の拭き方を忘れた子供のように
泣きながら佇む正樹がいた。

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