きみに守られて
上り線と下り線の二つの線路。

白線の外側にドライフラワーの儚さで、
今にも崩れそうな、
しなやかな女性が、
電車を見送っていた。
誰にも気付かれる事も無く、
正樹の妹、久美子の恋心が
遠く離れて行く。
親友、優里と共に。


くたびれた電車のロマンスシートで、
ユリツキの肩に額を預けて、
窓際に座った優里は、
自分の膝小僧を眺めている。

ユリツキは、
窓の外にある春霞に化粧された
山の稜線を、
指で撫でるように見詰めていた。

大地がふくれあがろうとする
豊かな土の香りと若葉の風が、
優里の前髪を微かに揺らす。

幾つかの照り返す激しい緑の森の中を
抜けた電車、気付くと、
正樹や久美子の別れ際に
一粒の涙も流さなかった優里が、
ユリツキの太ももを、
大粒の涙で濡らしていた。

< 184 / 198 >

この作品をシェア

pagetop