きみに守られて
『出会い』
青山通り。
人通りが多くても孤立した道である。

言語が同じだけの人々の中を歩く。

ユリツキは
他人を寄せ付けない顔つきで歩く。

何かを睨むような目は、

全てを裏側から見据える用意をしている
眼差しである。

だが、人に届かない心の中は
(誰もぼくを見ないでくれ、
見ないでくれ、見ないでくれ)

そんな情けない叫びを
連呼しているだけだった。

二つ目の曲がり角を曲がり
凍り付いたように立ち止まる。

不意打ちにあったような驚きに
ユリツキは直立不動で立ち止まる。

五十メートル程先、
六、七人の集団が
ユリツキの方へ歩いて来ていた。

一人だけ確実に見覚えがある人物
「大島優里」(オオシマユリ)だった。

息をのんでも
吐くことをできない緊張が
血液より早く体内を巡る感覚。

(こっちに来てる、どうしょう)
情けない心の連呼。


好きな子と廊下で
すれ違うのをためらう
男子中学生もどきになっていた。

ただ一人、
興味をもてる女の子で
ただ一人、
自らの頭をあげて
見つめられる女の子。
”看板の女の子”
若き実力派女優
「大島優里」が、
現実にそこにいたのだった。


(とりあえず、
悟られないように普通に歩こう、
極めて普通に
目を合わせず
歩道の端を、歩くぞ・・)

重大決心をする。
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