幾千の夜を越え
9th 分神
左近と呼ばれた少年…。

その前の石の記憶ってのが繋がっているのなら。

「あの右近が敗れたか…」

感慨深く左近を見下ろす老人に

「右近なら今は川に居るよ!」

満面の笑みで答え、

「何と!2人共に残ったと申すか」

大袈裟に驚く老人を不思議そうに首を捻り見つめた。

「今に右近も川から肉を捕って帰って来るよ?」

「魚を捕って生き延びたか」

左近の言葉に老人は大きく頷くが

「違うよ!右近は水や魚を狙って川に来た獣を捕まえるんだ!」

左近が得意げに答え、

「成る程なぁ、右近は水を操る力に長けた者となりおったか」

老人も納得した。

そこで残像は消えた。

「右近はどうやら鳴神の落とし子って説は消えたな…水を操る力を持つってことから後付けされた、最もらしい説だ」

鳴神の落とし子ではない。

そんな事実より正直俺がショックを受けていたのは…。

「あの老人は右近と左近のどちらかしか残すつもりがなかったってことじゃないか…」

「いいや…それは違うな」

奴は俺を見ることもなく次の獲物を物色するかの様に辺りに視線をさ迷わせる。

「どっちかでも生き残れば儲け物程度の考えだったんだろ?」

当たりを付けたのか
片手を伸ばすことさえ面倒臭そうに人差し指を動かした。

「両耳から切り落としてただろ?神様の耳ってのは飾りだからな。無くなったところで支障がある訳じゃないんだよ」

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