幾千の夜を越え
5th 受容
「…慎ちゃん起きて!」

葵の声に
引き戻される様に目を覚ます。

「…ぅん?」

重いのは瞼だけではなく
躰中が一晩で鉛にでもなった様で

「いっ…」

指先を微かに動かした瞬間に
躰中を駆け巡る電撃に顔が歪む。

「見て見て!
昨日の雨が嘘みたいに晴れたよ」

窓際で空を眺めはしゃぐ葵に
悟られない様に躰を酷使し
起き上がり引き擦る事無く
近付き。

「スゲー快晴…」

上から覗き込む。

右腿に焼け付く痛みを感じる。

葵の前では辛い顔を見せない。

見せてはいけない。

それは物心ってヤツが付く前から植え付けられてた使命感…。

実際…俺は
ガキの頃から誰かに甘えた記憶がまるでない。

大人から見れば
冷めた可愛気のないガキだったに違いないだろう。

そのお陰で両親揃って
家を空けられてるんだが。

にしても…ダルい。

昨夜も取り立てて何か躰を使ったって記憶はないんだが…。

寧ろ…生殺し状態が二晩続きだ。

それはそれでキツイんだが…。

「慎ちゃん晴れて良かったね」

無邪気に笑う葵の髪に指を滑らせ

「そうだな…今日は葵の買い物に付き合う予定だったからな」

そのまま抱き寄せる。

「うん!約束だからね?
今日は早く切り上げて来てね?」

頭を預けたまま凭れる様に囁く。

「嗚呼…約束だ。
今日は1時間で終わらせる」

笑い出しそうな躯に言い聞かせ。

「その後は葵と買い物だ!」

自らに気合いを入れる。

裏腹にズキズキと疼く節々を
恨めしく思った。

柔な躯のヤローが…
足引っ張ってんじゃねぇ!

「うん!
慎ちゃんの教室で待ってるね?」

「それは駄目だ!」

葵の体を引き剥がし
直視して言い聞かせる。

「俺の教室はマズイ…
俺が迎えに行くまで自分の教室で待ってろ!」

葵が了承するまで繰り返す。

「良いな!」

< 61 / 158 >

この作品をシェア

pagetop