幾千の夜を越え
サァー…

シャワーを頭から被ったまま

ポタポタッ…

落ちていく滴を眺める。

「…情けねぇ…」

解ってる…。

左山の野郎を
葵に近付けたくなかった。

唯…その思いだけが先行して

葵に強く当たっちまった。

理由なんて話せない。

左山の存在は
俺の中でも未だ消化し切れてねぇ

奴が何者なのかも掴み切れず…
茜には悪いと思っているが、
目眩まさせカモフラージュを
続けるしか手が打てねぇ…。

左山が何を考えているのかが
明白に解るまでは…。

否…
これはもはや唯の独占欲なんだ。

誰であろうと…
葵に近付く野郎は許さねぇ!

もう二度と…。





…二度と?
何だ?

又だ…。

又この感覚…。

俺の深層で…
何かしら根付いてる。

思い出せねぇ何かが…。
トラウマになってやがる。

それが何かの拍子に
少しずつ微かに…
フラッシュバックしてきてる?

ドキンッ…ドキンッ…っと
鼓動が耳に付き

確実に息吹き出したことを
認識させていた。

俺は思い出さなけりゃならない。

それが葵に関わることなら…。

例えそれに因って
俺が壊れるとしても…。

「慎ちゃん…
早くしないと遅刻しちゃうよ…」

浴槽を隔てるスモークガラス越しに葵の声が反響する。

愛しい声が
現実へと引き戻す。

「ん…今出る…」

ドアに手を掛けると同時に
影が動く。

「葵…」

反射的に声を掛けていた。

「何?」

振り向かずに答える声は上擦り…悪戯心に火を着ける。

「見る?俺の全…」

「慎ちゃんの変態!」

最後まで言わせず
浴室のドアが勢いよく閉まる。

変態って…

やり過ぎたか?

タオル一枚腰に巻き
首から一本を垂らす。

乱暴に頭を掻き拭いた。

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