幾千の夜を越え
7th 事実
合わせられる顔も
掛けられる言葉も
探し出せず見付けられず…。

避ける様にして遠避け
学園祭当日を迎えていた。

クラスの出し物が別の場所で良かった。

使われない教室は外の喧騒を離れ俺の身を巧く沈めていた。

何度この手を見詰めただろうか。

僅かに残る柔らかい感触を
思い出しただろうか…。

二度とこの手に触れることなど
出来ないと思うのは右近の思いに対する敬意からだ。

此程までに強く想いながら
それが許されなかった。

右近も尊も関係ないと言いながらそれを切り離せず一番拘っているのは俺なのかもしれない。

葵を想う気持ちは変わらない。

だがそれは、
本当に俺の気持ちなのだろうか?

取り残された右近の気持ちじゃないと言い切れるだろうか?

自分を強く抱き締めたところで
葵を抱き締めたい衝動を抑えることなどいつまで出来るだろう。

自信がなかった。

右近の想いを無にする覚悟も。

右近の想いを受け止める覚悟も。

俺は弱い…。

動き出すことも出来ずに
時が流れるのを傍観するしか
出来ない。

ガラッっと乱暴にドアを開け

「何やねんあれ?」

「左山…?」

ずかずかと近付いて来る左山は

「ちょおよう見せぇや!」

いきなり俺のベルトに手をかける

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